頭の中の人が言ったことメモ
その破壊的な世界観でコアなファンをもつシンガーソングライター。彼の唯一の肉親である弟が、ある事故(事件)をきっかけに自分の部屋から出てこなくなってしまう。
彼は弟と向き合って来なかった自分を責め、これからは自分の全てを弟のために捧げようと決意する。
『君はひとりじゃない そのままの君でいいんだ』
彼の歌の突然の転向に、一部のファンは愛想を尽かし、もっと悪いことに多くのファンは熱狂した。
薄暗い部屋のラジオから、ヒットチャートの常連となった彼の新曲が流れる。薄く笑う弟。
ヨヘネの黙示録
屁をすかせなくなった。
かつては歩きながらでも、あるいは人ごみの中ででも、自在に屁をこくことが可能だった。音さえしなければ、人間の嗅覚はその根源を辿るほど優れていない。わたしは誰にも気づかれず、あらゆるミッションを成し遂げてきた。
最近屁に音がついてくるようになった。自分でも意識せずにブッと。
だがこれは別に退化ではない。一人暮らしの自分の部屋では、屁をこく時には如何に大きな音を出せるかを無意識のうちに競っている。それが公共の場でも出てしまっただけのこと。いわば進化、次のステージに進んだだけのこと。
世界の終わりを告げるラッパ、7人目の天使はわたし自身だ。
まぁ、職場で気を抜いて屁をこいたら隣のブースに同期の女の子がいて、しかも何事もなかったかのように振舞われて、世界が終ればいいのにって思ったっていう、そういう話ですよ。
仄暗い水の底から
眠れない夜は、水底へ沈むイメージで眠りにつく。ある時から、女の子が夢の中に出てくるようになった。水中で僕をじっと見つめている。たまに話かけてこようとするが、言葉は泡となり僕の耳に届かない。そうして、目が覚めるのだ。
だが何回も同じ夢を見るうちに、唇の動きでなんとなく彼女の言葉が分かってくるような気がする。「た・す・け……」助けて、と言いたいのだろうか。だが僕にはどうすることも出来ない。そこでまた目が覚める。
ある夜、また彼女が夢に現れる。そして不意にはっきりと彼女の声が聞こえる。「助けて、あげようか?」僕はたしかに何かを言おうとしたが、その言葉は泡へと消えた。そして僕はさらに深い水の底へと沈んでいく……。僕はもう、目覚めることはない。
百九番目の除夜の鐘
ひとりが楽しくて仕方ない。
誰もいないアパートの電気を点ける。襟元のだるだるになったトレーナーを着ながら、ビールを開ける。つまみはスーパーの半額惣菜。ネットでもう何度も見たような、昔好きだったTV番組を見ながら、気が向けばもう一か月は読みかけの本を開く。興が乗れば数分もかからない自堕落な自慰行為。楽だ。この生活を失いたくない。
でももう自分は、これが惚気だってことも気づいている。
恵まれていることを自覚しながら生きるのは、数年前考えていたより難しいなぁ。